anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧

餅つき大会

杉並区阿佐ヶ谷にある、東京朝鮮第九初級学校の校庭で行われた餅つき大会に妻と参加する。並行して同じ校庭で、明日、明後日の錦糸町公園、西戸山公園の開催予定の年越し炊き出しの準備、豚汁と牛丼の具を調理した(公園で火は使えないのだという)。炊き出し…

ガードマン (28)

いや、そんな彼らの個々の経験や経歴などは、どうでもいいことであろう。世の中には腐るほどの人生がある。ただ真実なことは、たとえそれぞれ各人にどんなに豊富な過去の経験があろうとも、私も含めてこうして臨時の警備員に成り果てているのは、それ以上で…

ガードマン (27)

ガードマン (27) 例えば、地方有力議員の元選挙参謀でありながら、生業のダンスホール経営の失敗後、秋田から上京して様々な職を経たが、結局、失敗続きで警備員に流れ着いた任侠気質のO氏。 あるいは、バルブの頃、絶頂期の西武百貨店の専属広告デザイナー…

ガードマン (26)

そうして同僚たちとはこんな風に、嫌でもこの狭い空間で何年かを過ごせば、大概のことは語り尽くすことになってしまう。思い返せば、私はこの職場で、何人もの話し相手に奇跡のように恵まれた。しかもその多くは私よりも長く生きた者達であった。ということ…

ガードマン (25)

ガードマン (25) ジャグジー風呂に浸かってほてった身体に、長水路の冷ややかな流水が心地よかった。それでも生温い水の塊がときどき私を包み込み、反転するかと思うと、皮膚を優しく撫でるようにまた流れ去っていった。まるで誰かの温かい手で身体を掴まれ…

ガードマン (24)

ガードマン (24) 私はジャグジー風呂でほんのりと温まった後、湯船から上がると今夜の同僚とは別れることにした。まだ選手たちの昼間の足の臭いが残るウレタンマットに足を滑らさないよう、誰もいなくなったメインプールに一人向かった。50メートルの水路が…

ガードマン (23)

ガードマン (23) 宿直は勤務のローテーションによって、相方の顔ぶれが順次変っていく。ひと月ほどでそれは一巡して、また最初に組んだ同僚と一緒の勤務になる。気が合う同士なら、ほとんどの宿直の夜を盃片手にちょびちょびとやりながら、その仮眠の前のひ…

ガードマン (22)

退職とは、人さまから忘れさられて引き潮のように居なくなるのが当たり前のことと思っていた。長く勤めればよくあるように、あちらこちらの対話中に感極まり、涙目の挨拶回りなど私には笑止千万なことであった。他人の人生の前を偶然に通り過ぎていく我々に…

ガードマン (21)

明日からはちょっと別の警備現場に応援にでも出かけるような、そんな妙に落ち着いた自分がいた。ただし、それはもうここには二度と戻ることのない応援であったのだろうが・・。このすみやかに取り戻せた平静さ、環境の変化に対する無関心さはとてもいいこと…

年末年始、ボランティア募集中

ガードマン (20)

それに自らが積極的に何かをして責任が生じることと、何もしなかったことが原因でその責任を受けるのでは、後者の方がうんと割りに合わないだろう。不作為から生じた責任は厳格であるべきなのだ。だから生真面目な警備員にはやはりこの仕事は割に合わない。…

ガードマン (19)

実は、一見何の変化もなさそうな伸びきった日常性の中の、小さな兆候に気がつき、敢えて異なるもの、不審なものをそこに嗅ぎつけ、更に自覚的に予防の手を加えていくことは難しいのである。なぜなら、そうした異常性を生じる原因はどこにでも転がっており、…

ガードマン (18)

結局、私はいつの間にかずるずると、六、七年を警備員として過ごすことになった。自分から何かを動かしたり、生み出したりするのではなく、もっともそんなことはまっびらごめんであったのだが、何も起こさせないことに、たとえば盗難や火事や不測の事故が起…

ガードマン (17)

そんなわけで酒好きの同僚とは、毎夜、仮眠の前にこっそりと缶ビールの栓を抜いてうさを晴らした。禁断の果実は実に美味いものだ。いや、そんなことへわざわざ後ろめたさを感じる者などいなかった。我々に世間並みの良心などというものがあるほうが驚きだっ…

さよなら

水さしからの嚥下の力もなくなり、四肢の肉は削げ落ちていた。瞳の色もすっかり薄くなり、眼窩は深く落ち窪んでしまった、可哀そうな人よ。そして今朝、とうとう身罷ったのだ。気がつけば目を開けて、手は美しく胸の上に組んだままだった。息はもうすでに途…

ガードマン (16)

2・4勤務、長い拘束時間の道すがら、時には楽しみがないわけではなかった。塞がりそうなまぶたに難義をしながらも、私たちにはかなりの、自称自由時間が待っていた。深夜、日付がようやく変わろうとする頃、建物には人の出入りもすっかりなくなって、昼間と…

ガードマン (15)

それでも宿直日のニイヨン勤務は私にも途方もなく長く感じられた。当日の朝、勤務に就くと、翌日の同じ朝に現場を退所するのである。丸一日、24時間働くのでニイヨン勤務と呼んでいた。伸びきった時の流れは、その中でえら呼吸の仕方を覚えれば、長く感じる…

ガードマン (14)

結局この警備という商売に身を深く沈ませながら、水面にふと浮き上がったときに、やはり私という人間にはここの水があっていたのかと、上から与えられた、あらかじめ決められた仕事さえ、意思を交えずにきちんとこなしていれば、あとはよしなにどうぞと、ど…

ガードマン (13)

職場の連中を眺めたって、警備員をやりたくてこの世界に入ってきた奴は一人もいないにきまっている。興味津々、我が身にときめくものに誘われて、あるいは他人にそそのかされてここに流れてきたわけでもなく、皆、なんとなくその場しのぎに立ち寄って、お茶…

ガードマン (12)

どういうわけかこの警備の世界、一度その釜の飯を食うとなかなか足を洗えないものだった。足を踏み入れるときはなるほど気楽なものだ。日銭を稼ぐのに慣れた者には、新聞やチラシに載ったたくさんの警備員の求人広告はいつも魅力的で、ありがたいものだった…

ガードマン (11)

最後の巡回の時間が静かにやってきたようだ。正面受付の机が小さく見える、しかも動くことが嫌いで豚のように肥えてしまった我々隊長の背中に、いつものようにお愛想の出発の挙手をして、片手に鍵束携えると、私は慌ただしく警備室を飛び出した。施設警備は…

ガードマン (10)

そんな私にも今宵、あと一晩だけ当直をすれば、長かった私の警備業も終わりになる日がとうとうやってきた。私の意志で辞めるわけではなかったので、穏やかな気持ちだった。会社の撤退でこの現場がなくなり馘になったのだ。ベルトコンベアに押し出されように…

ガードマン (9)

そんな私にはとうてい解読不能だった一般社会の人々の無関心さだけが救いであった。私は案山子のような警備員であったから、その血の通わない醒めた心を外に知られてはいけなかった。人との接触はできるだけ避けた。そして他人と心を通わすことは案山子でな…

ガードマン (8)

その頃の私といえば、雀の涙ほどのお給金の支給日を首を長くして待ち、毎日の勤務時間がただ早く過ぎ去って行くことだけを心から望んでいた。長い間、日雇いにはなんの保障もなかった。周囲の何処をさがしても、希望と呼べるようなものは何も見出せないよう…

ガードマン (7)

腐れ警備員、当時私達は自分たちのことをそう呼び合っていた。ここには自嘲の響きすらなかった。職業に貴賎はないというがそんな事を真(ま)に受ける仲間は一人もいなかったのだ。虐げられたこの世界は私たちの吸う吐く息そものの臭いがして、毎日、鉛色にし…

ガードマン (6)

警備員としての長い一日は、観葉植物の静寂さと似ているような気がした。ほどよい薄日の下で声も立てず、陽の光の傾きにただかしらを合わせる観葉植物の呑気さ。はからずもどちらも見られることでその存在価値を十分に示すしかない消極性。そして単調な一日…

ガードマン (5)

瓜二つの双子のように、いかなる時も私の影身に添ったもう一人の内なる警備員に、私という人間を骨の髄まで知らしめられたと、今も頑なに信じている。それは優しい無関心の世界で、安らかな息を吐き続けることを覚えたのだった。 この世界とは、私にとってた…

ガードマン (4)

天井裏の配管に水の流れていく音が聞こえた。いや、もしかしたら鼠の走る足音だったかもしれない。ふうっと、私をささえていた床がそのまま垂直落下したように感じて目が覚めた。目は覚めたがそこは夢の続きのような気もした。なぜなら部屋の外には壁一枚を…

ガードマン (3)

妖しい花の香りが私を寝させなかった。そして瞼を閉じてもその花は消えなかった。天井にぶら下がる電球の傘の背後に、垢染みた共用の布団の足もとに、あるいは鈍い音を立てて回り続ける換気扇の吸込み口に、その花の姿が見え隠れしていた。そうした夜の花園…

ガードマン (2)

頭で考えること、そうした努力は私の生活に不透明さを増すばかりで、何の役にも立ちそうに思えなかった。それに警備員の制服が、したり顔した私自身の脆弱な内密を世間から免罪符のように守ってくれた。私は繭の中の幼虫のように、好きなまま糸を吐いて繭ご…