anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

ガードマン (3)

妖しい花の香りが私を寝させなかった。そして瞼を閉じてもその花は消えなかった。天井にぶら下がる電球の傘の背後に、垢染みた共用の布団の足もとに、あるいは鈍い音を立てて回り続ける換気扇の吸込み口に、その花の姿が見え隠れしていた。そうした夜の花園に幾度も踏み迷いながら、しかし夜の気配が私の周りで沈々と更け行くのに身をまかせるしかなかった。

 いぐさの綻びがところどころ見える薄汚れた畳が、したり顔で仕切る警備室の、雨水の染みの走る色褪せた壁を見つめていると、その陰火のような花たちがつぎつぎと壁から浮かび上がり、ある時は火事場の炎に輝らされた真っ赤な蕾を今にも開かすようで、また、以前にどこかで耳にした忍び歩きの足音が、その影に添う繊細で隠微な黒い花びらを、窓の外のベランダに並ぶ鉢植えの上に、そっと散らしているようにも見えてきた。