anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

ガードマン (28)

 いや、そんな彼らの個々の経験や経歴などは、どうでもいいことであろう。世の中には腐るほどの人生がある。ただ真実なことは、たとえそれぞれ各人にどんなに豊富な過去の経験があろうとも、私も含めてこうして臨時の警備員に成り果てているのは、それ以上でも以下でもなく、まさに各人の身の丈にあった現在であるということであった。そして、社会にひねりつぶされそうな現実に拳を振り上げることもできず、ただ、諦めとその場からの逃避によって、その日その日を生きながらえている私のような輩は、過去も現在も、そしてこの先の未来にもけしてこの社会からいなくなることはないであろう、という切迫した思いであった。

 それにしても彼ら自身の、現実生活に低く這いつくばるような、しかも諧謔の色調さえ帯びた、自他に対しての容赦のないリアリズムの眼差しや、己の不甲斐なさと、大方の成功者がもつ驕りへの本能的な嫌悪感が、我々に合い通じる気質であった。それはまた社会に頓挫して流浪する者たち、一生そこからは逃れられない者たちの隠すことのできない特徴でもあったのだ。あるいは、失敗者の烙印を押されながらも、かえってそのことで己れからの自由を得て、無害の一般生活者に対してさえ、その彼らの中に、偽善や嘘を鋭く嗅ぎつける特技をもつに至ったとも言えるのではないだろうか。
                   完