anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

2022-11-23から1日間の記事一覧

松沢日記 31

その理知的で端正な背広の似合う人はいつも、朝早く、我々通勤人が大勢通り過ぎて行く傍を、火ばさみとビニールの回収袋を抱えて、歩道に落ちている紙屑やら空缶をそそくさと拾い集めていた。駅から吐き出されて行く通勤客の流れは途絶えることがなかった。…

霊魂

『亡くなった人の気配はあたたかい・・』 先日、街の古本屋で買った百均本、瀬戸内寂聴と美輪明宏の 『ぴんぽんぱんふたり話』 集英社を一気に読んでしまった。二人とも、特に美輪明宏は生前の三島由紀夫とは、彼自らの言葉に従えば「入魂し合った仲」なのだ…

三島由紀夫、遊就館

三島由紀夫の文学的表現の豊穣さは圧倒的だ。散文で書かれたイメージの喚起力がこれほどまでに冴えて、私を酩酊させる作家はそういないのではないか。時にはずいぶんとあざといと感じる文章もないではないが、やはりこれは日本語表現による到達した一つの極…

アムステルダム 2 (8)

北ヨーロッパのつるべ落としにやって来る、透き通るような秋の美しさは言うに及ばないが、暗く厳しい冬の寒さがようやく解けて、春の夕暮れ時の、陽の翳りはじめたアムステルダムの街もまた夢のように美しかった。運河に沿った石畳の街燈にぽっと火が灯ると…

アムステルダム 2 (9)

私は仕事前のいっ時を、よく運河沿いの仕事場に近いパブに座って、こうしてあたりがすっかり暗くなるまで、街の表情や通り過ぎて行く人々を、ただぼんやりと眺めていた。たまたまシベリア鉄道を陸伝いにここまでやって来て、ふと遥かな極東の日本を思えば、…