anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

アムステルダム 2 (8)

北ヨーロッパのつるべ落としにやって来る、透き通るような秋の美しさは言うに及ばないが、暗く厳しい冬の寒さがようやく解けて、春の夕暮れ時の、陽の翳りはじめたアムステルダムの街もまた夢のように美しかった。運河に沿った石畳の街燈にぽっと火が灯ると、街の底は急に深さを増した。すると、中世そのままの石造りの建物が、運河の川面に、折りたたまれた影絵のように浮かんできた。傾き始めたまだ春の病み上がりの陽の光が、この河口に埋立てられた絵葉書の街に、光と影のせめぎ合いをいたるところに残して逃げていった。

ふと目を下ろせば、広げた扇の骨のように、この街を寸断する深草色の運河の上を冷たい風が吹き始めているのに気がついた。微かな潮の匂いが川下の港の方から運ばれてきた。私の感覚はとぎ澄まされ、すべての変化を受け入れる準備ができていた。岸から離れた流れの中ほどに、澪(みお)筋をなぞって小さな渦ができている。渦はきらきらと光りながら、波に揺られて岸に近づくと、そのままもやいの杭に繋がれた水上生活者達の小舟にあたって、その落ち葉模様の船べりに、弱々しい光の波紋をぶつけては砕け散った。