anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

2022-11-20から1日間の記事一覧

大吟醸

死んだ父の納骨が終わって、一連の葬祭行事にもようやく一区切りがついた。先週は東京~札幌~大阪と骨箱を抱えながら、日本列島を縦に長距離移動したことになる。父も納まるところに納まって安心したことだろう。先祖のいる遠い幽所の深みから流れでる因果…

松沢日記 19

それは地上では人目につくことも許されず、しかも地の底にあられもない忌避の姿でうち沈んでいた。原形を保つ猶予さえとうに過ぎてしまった人間の排泄物は、我々に有無を言わせない生々しい迫力がある。私たちの肉体から吐き出されたこの崩れ堕ちた腐臭の流…

アムステルダム 2 (23)

私は日本人のまずもって他者ありきの傾向、生きることの意味のほとんどを、他者との関係性に汲み上げるそのあり方、あるいはそうした他者との比較対照をベースに据える日常の構築、またそこから無意識に発症してくる集団的な躁・鬱状態を、すぐ間近で見せら…

浄閑寺

勤めている店の内輪話を長々と聞かされたあと、ちょっとした無言が私たちを閉ざした。目前のマンションの蛍光灯がまたたき始めたガラス窓に、咲きかけた牡丹の花の、垣根越しに枝のゆれる姿が浮き上がった。夏越しに備えた水苔がその地面を青々と覆っている…

米軍基地、人物点描 (2)

最初から、Wは複雑な人間に私の目には映った。如才ないという言葉がよく似合う都会人で、陽気でしかも愛想がとてもよかった。彼が人の輪に入ると、矢継ぎ早に世情の話題を提供して周囲をほっとかない。だが、私の彼の最初の印象はだいぶ違っていた。あれこ…

毛がに

蟹を食べれば人をして沈黙させる。磯の香りを漂せる焼き蟹は、とくに夢のように美味いが、茹で蟹もそうそう負けたものでもない。そういえば、皆が口をつぐん黙々と、小さなテーブルを囲んで一心不乱に蟹を食べるということも、ずいぶんとご無沙汰してしまっ…

米軍基地、人物点描 (4)

まるで彼の運転する幅広のタイヤは地面に吸いついているようだった。頭を上げることを禁じられて、匍匐前進を強いられている兵士のようでもあった。それでもMPたちの乗るジープにはそんなことはなかった。なぜならここは自由自在の彼らの庭であったのだ。私…