anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

2023-01-01から1年間の記事一覧

酔言 29

酔言 29 父が死んだ直後のことです。遺体はまだ実家の床にありました。枕元の文机に置いた遺影が線香の煙にくすぶるとき、その魂のようなものが小さな子供の姿になって、きゃっきゃとはしゃぎながら、ほんのりとした薄明るさの中で、もちろんそれは私の心の…

酔言 28

酔言 28 人間関係とはたしかに難しい。しかし、他人と比べて私自身はそれほど人間関係に悩んだことがないと断言できる。おそらくそれは私が他人を羨んだり、攻撃することに縁のない人間であったせいなのか、他人に何かを求めることに非常にナイーブなのか、…

ガードマン

ガードマン (13) 職場の連中を眺めたって、警備員をやりたくてこの世界に入ってきた奴は一人もいないにきまっている。興味津々、我が身のときめくものに誘われて、あるいは他人にそそのかされてここに流れてきたわけでもなく、皆、なんとなくその場しのぎに…

酔言 27

酔言 27 昨年暮れに亡くなった義母の墓は大阪にあり、久しぶりにこちらにやって来た。というのは、同居する前の義母は長く大阪で働いていたのだ。その当時、妻と毎年、義母の一人住まいに訪ねた記憶がある。まさかその後、紆余曲折を経て四半世紀もの間、東…

松沢日記 41

松沢日記 41 人さまのことではなく、配管の類いも「縁切り」という言葉を我々はよく使う。例えば使用不能になった配管は、撤去する工事の煩わしさを省くために、生きている部分はそのままに、鉄板などの閉止板を挟んでその先の要らない箇所を切り離してしま…

酔言 26

酔言 26 まさに多摩のすそのは透きとおるような秋。このところの朝夕の冷え込みがきつい。さすがに昼と夜の寒暖差が都内とは違うように感じられる。ここ数日で高尾山近くにあるいちょうの並木が少しずつ黄ばみ始めた。それでも「いちょう祭り」の燃えるよう…

松沢日記 40

今年の夏の間、病院別棟の熱源機器が集中しているエネルギーセンター、その一番奥にある人気のないボイラー室は換気がしっかり効いているはずであったが、それでも室温はいつも45℃を軽く越えていただろうか。なにしろ蒸気をつくる貫流ボイラーには冷房は必要…

松沢日記 39

松沢日記 39 薬剤科の純水装置のメンテナンスに来院した三菱ケミカルの技術員と立ち話をしていて、さらに「超」の頭文字のついた超純水というものがあると聞き、そんな水はいったいどんな所で使用しているのか尋ねてみると、半導体デバイス、液晶ディスプレ…

酔言  25

酔言 25 突然、胸が詰まり目が潤んだ。こんなはずではなかった。明日、長年住んだ部屋を住宅公団に明け渡すということで、一月前から少しずつ引越しの準備をしてきたが、引越し先から荷物の何も無くなった住み慣れたこの住宅に戻り、最後の明け渡しの清掃を…

酔言 24

酔言 24 昨年、アイルランドで行われた体操競技、大会表彰式での出来事という。少女たちが順次メダルを首に掛けられる中、画面に映る黒人の女の子だけがスキップされた。こんなあからさまな絵に描いたような差別は、おそらく個人的な行為というよりは、この…

松沢日記  38

松沢日記 38 ボイラーの「性能検査」では、あちこちの職場で何度も立会いをしているので慌てることはないが、それでも柄にもなく緊張はするし、時にその検査官から意地悪な質問もされるので嫌なもんだ。個人的な興味からマニアックな質問をされてもこちらは…

酔言 23

酔言 23 明日午後の予定、府中職業訓練校で四時間の特別講義(省エネ、脱炭素)のレジュメがやっとできた。都訓練校で唯一のセキュリティ科があるというから、そこの生徒たちの卒業後の志望はいつも教えている生徒たちとは少し違う。クラスには消防設備や警備…

酔言 22

酔言 22 泥にまみれたこの世にも、まだひぬ真木の葉の露に月影が灯るように、隠しても、隠しきれない一念の人がいるものだ。その一念は、意識的でも無意識でもよく、その人の姿かたちにもかかわらない。あのように世間にまぎれて、この文をさりげなく書いて…

松沢日記  37

松沢日記 37 都立職業訓練校、飯田橋にある高年齢者校のビル管理科に在籍する生徒たちが十数名、実際の実務を肌で感じ、私の勤める松沢病院の関連設備を見学したいというので、微力ながらも骨を折ることにした。最初、どちらも都立の施設だからと病院見学を…

酔言 21

酔言 21 とうとう実際に、汚染水?を海洋に流すとなると、こうしたことに関心の薄かった私の中でさえも、問題は深刻になる。この現状に何かをしなければと。しかし、政府の言い草を反駁するだけの知見と時間が私にはない。多くの国民もそうだろう。直感的に…

酔言 20

酔言 20 憲法16条に認められているいわゆる「請願権」を私たちはどれだけ認識しているだろうか? 検察・警察に犯罪の捜査を訴えることができる「告発」や、公権力の行使の適法性などを争い、その取消し・変更などを求める行政訴訟とともに、国や地方公共団体…

酔言  19

酔言 19 薄紅を点したサボテンの花が昨年に続き咲いた。しかも誰も見ていない真夏の夜中に、そのベランダの月明かりの下で、そっと花をほころばしていたのである。前の家で引越しの荷造りの時、段ボールに入れたままに、トラックの振動にさらされて、着いて…

夏祭り

酔言 18 よく見ると、お囃子方が皆、若いではないか、あれ、白狐もいる、これが世にいう「天狐」の舞いだろう。屋根には男衆が気勢を上げて山車を盛り上げている。この辺り、昔は「桑都」とも呼ばれた。こうして南多摩の伝統文化がしっかりと引き継がれてい…

酔言 17

酔言 17 4階のベランダの窓越しに高尾山の山影が見える。眼下にはその高尾山から流れ下ってきた渓流のちゃちで小ぶりな川瀬が見え隠れしている。渓流というよりはもう立派な川かもしれない。いや、地図で調べると一級河川でもあった。その南浅川は夏風にそよ…

酔言 16

酔言 16 毎日の忙しさに手も足も出ず、私にとってはウクライナの戦禍さえも、まるで遠い出来事のように思えてしまう。ミャンマーの罪禍もまた同じだ。これが良いのか悪いのか、まさに私自身が世界の出来事から離れ、病院機械を相手に、あるいは訓練校の不安…

狂桜 改

狂桜 改 拝啓貴女のお顔を拝見できなくなり、随分と久しく、月日だけは徒らに流れて行きました。それでもその叶わぬ悲しみが、今の今まで、貴女に偶然出会えた喜びの、色褪せることには少しもなりませんでした。今年でもう幾度になりましょう、また桜の花咲…

人物譚 米軍基地編 改

人物譚 米軍基地編 (1) ひょっとしたら、あらゆる実体はそれが幻だとして、積み重ねては容易に崩される積み木細工のように儚いものではあるが、それでも人の縁とはしぶとくその後の私たち自身を規定する。しかも、思い出したくはないのに思い出し、刻まれた…

市民運動家

側から見ると、ご両人は昔からの戦友のように仲が良く、本音の言い合いをしながらも、活動家としてのお互いを深く認め合っていると、私のような外の者でもそう拝見しておりました。それにしてもお二人ともご無事でよかった。裏で何者かの意思的な暴力が働い…

酔言 13

酔言 13 実務の目から脱炭素に関連して省エネの講義をしてくれと、某職業訓練校から話が来た。今までとはまったく違う訓練校だ。私ごときが「省エネ」を教えるとは手にあまるのだが、引き受けた。ますます野暮用に時間を取られる。あらためて勉強しなければ…

酔言  12

酔言 12 死者の世界とは何ゆえにここまで鎮まりかえっているのか、といぶかりながら、肩寄せ合い所狭しと立ち並ぶ、さながらコインロッカーのような納骨堂の中を、私は伏せ目がちに巫女のように歩いていた。開き戸のロッカーには数字ではなくそれぞれの家名…

軌道工  28

軌道工 28 以前から知っていたのですが、魔は不意に人を食らうのです。喰らわれた人は目つきも変わり、徐々に肉体の中にその毒がまわると、世界の風景も、身につけた大切さの秩序も地滑りを起こして一変します。しかもその毒の痺れで、運良く蒙昧のまどろみ…

軌道工 27

軌道工 27 桜という樹の、その春爛漫の花びらが一斉に風に靡いて、揺れる木末につむじを巻くころになると、降り積もる落花の淡いは際限もなく、足もとの大地がまた薄紅色の明るさで華やいできます。幾春も、あてもなく歩く先々で、散り急ぐ桜の花びらを見て…

酔言 11

雨にやつれて散る桜の樹を寒々と眺めながら、今日も仕事の帰りに一杯やっている。今年の花の散り脚は早かった。と言っても慎ましやかに安酒屋でビールをやるだけだ。つまみは今日の日替りサービス一品。それは日によって違う。それでコートについた冷たい飛…

内耳の戯れ

内耳の戯れ このところのメニエールの不安はなんだか懐かしいものだった。しかし、得体の知れない塊がまた身体をむずむずと突き抜けて行くようで、しばらくの間、手なづけていたつもりだったのが、残念ながらそうでもなかったらしい。そうは言っても私の精神…

松沢日記 36

松沢日記 36 予想もしないことが起きたときに、そこに関わった人間の質がどうしたって現れてしまうものだ。もしかしたらその時、過ぎにし月日の一筋のかなしみにも似た、私自身の醜態を曝け出してはいなかっただろうか? 傍らにいた他人のように、心配に慌て…