anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

軌道工  28

軌道工  28

以前から知っていたのですが、魔は不意に人を食らうのです。喰らわれた人は目つきも変わり、徐々に肉体の中にその毒がまわると、世界の風景も、身につけた大切さの秩序も地滑りを起こして一変します。しかもその毒の痺れで、運良く蒙昧のまどろみから覚醒させられる者もあるのですが、二度とこの現実の確からしさに自信がもてなくなるかもしれません。また、夢とうつつの境目を魔が自由に出入りして私を捉えたとき、時も空間もその存在を絶たれ、世界はホログラフィーのように幻の顔を見せ始めるはずです。

 そして桜はその本性をひた隠しにしているからこそ、我々には哀しいほどに美しく、大事なものを桜が秘っすればこそ、花の生命は永遠に私たちの中に生きるのです。だから、春になると道端で咲き乱れる見上げた桜の樹の、そのうわべの美しさはどこまでも仮象にすぎません。しかし、ある春の明け方近く、私は軌道の上からその桜の樹の本性に出会いました。