anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

2022-11-19から1日間の記事一覧

「狂桜」

拝啓貴女(あなた)のお顔を拝見できなくなって随分と久しく、月日だけは徒らに流れて行きました。それでもその叶わぬ悲しみが、今の今まで、貴女に偶然出会えた喜びの、色褪せることには少しもなりませんでした。今年でもう幾度になりましょう、また桜の花咲…

軌道工の唄 (11)

時が熟しつつ、地の底にみつる遍満の力に押しつぶされて、ふたたび地上に生まれ出ずることの突拍子のなさを体現している鉱物達がいます。あるものは妖しく気を発し、その姿を不本意にも私達に見られることで、自らの体内に結晶化させた瑠璃色の時の封印を、…

軌道工の唄(19)

麓に近づくと、匂うはずのないあちこちに花の香りが立ちました。周りを見ても軌道の周囲に杉林が鬱々と連なり、その下藪に咲く可憐で小さな露草の花が所々に見えているだけなのです。ふと、白檀にも似たその香りが、この街で死んだ者達の、魂の放つ香りにも…

酔言 4

春は立ち 想いめぐるは こころほぐれて おりふしの 君と結びし 八重の言の葉 今はかぎりと あぶみかけたし 君のこころに あだし野に 咲くあだ花と 知りつつも 枯らすまじきと 息を吹きかけ 謳い途絶えし 黒花の艶やかさ 墨色めずるは 天下の誉れ ついの棲み…

酔言 8

ずいぶんと久しぶりのリムジンバスだった。羽田から郊外の調布までの約一時間、運賃は少し高めだったが嵩張る荷物を両手に抱えて、ここ数日、旅行キャンペーンに煽られた帰省客の溢れる都心の私鉄に、どうしても乗る気にはなれなかった。ただでさえ日祭日の…