anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

夏祭り

酔言 18

よく見ると、お囃子方が皆、若いではないか、あれ、白狐もいる、これが世にいう「天狐」の舞いだろう。屋根には男衆が気勢を上げて山車を盛り上げている。この辺り、昔は「桑都」とも呼ばれた。こうして南多摩の伝統文化がしっかりと引き継がれているのだろう。東京の西の外れに流れてきた外者にとっても、足元の大地から過去の人間の息吹が感じられる。明治期、横浜港からは高級絹が輸出され、その輸送のためにこの地から横浜線が引かれた。ここ八王子はその養蚕業の集積地として栄えたという。今も黒壁の花街が残る一角からは、炎天の中、昼下がりともなれば、猫とともに粋な糸竹の音曲が洩れ聞こえてくる。

 仕事帰りに「八王子祭り」を初めて観た。4年ぶりに開催される夏祭りだそうだ。甲州街道の大通りから、数キロ離れた神社の帰途に着いたばかりの近所の山車の様子。こんな山車が三日間、八王子のそれぞれの町内から19台も駆り出されて、大勢の見物人に溢れる東西に貫く大路を巡行するのだという。場違いな私の自転車は大路の群衆に押されて、ほうほうの体でその場からの離脱を余儀なくされた。

 日本人の祭り好きは知っていたが、この地で偶然、こうしてまた出会うとは思わなかった。非日常の空間がお囃子の音に乗って、奥深い多摩の山稜から降ってくるような気がした。そして、私にはこの舞い降りてきた空間にはどこか「狂」の匂いがする。苦しみも、しがらみからも、つまりは現世からも逸脱して、まさにこの瞬間にだけ漂うような、そこにはリズムと時間感覚の甘美な麻痺しかないだろう。その先に、神懸かり物狂いの世界は近いのではないか。誰にとってもそれは心の奥にあるものだ。

 山車の提灯には、元本郷町、千人町、中町、三崎町、天神町、寺町、日吉町、平岡町、八日町、小門町・・と、よい響きの町名が続く、そして明日はそれぞれの神輿も我々のいる俗界を渡る日だ。祭りの最終日、永劫に循環する祭祀か、