anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

ガードマン (10)

 そんな私にも今宵、あと一晩だけ当直をすれば、長かった私の警備業も終わりになる日がとうとうやってきた。私の意志で辞めるわけではなかったので、穏やかな気持ちだった。会社の撤退でこの現場がなくなり馘になったのだ。ベルトコンベアに押し出されように辞めて行くのは悪いことではなかった。私は運命に感謝した。私の意思がどこにも介在しないで事が動いて行くのが、私が私自身を裏切らない証拠でもあった。なぜなら、馘になっても私の心に何一つ動くものはなかったのだ。心が変わらなければ、やはり馘の意味も存在するはずがなかった。私に意思があれば事の動きに抵抗したに違いない。

 厳めしいがどことなく胸に漫画チックで派手なワッペンのついたこの紺色の警備服も、儀仗兵のするような白くて野暮な革帯(かくたい)が、私の腰を窮屈に締め上げることも、それに赤と青の線が斜めに入った縞柄の、このセンスのまったくないネクタイとも、今日でみなおさらばなのだ。炎天下に、イベント会場に設けられた駐車場の車両誘導で、強引に割り込むタクシー運転手と怒鳴り合い、会場入口の入場を待つイベント客の長い列に呼子笛を鳴らして真っ直ぐにさせることも、おそらくこの先、一生ないことだろうと思えば不思議なもので、警備員でいるのは今夜限りかと、胸に切なさのようなものが込み上げてきたのには、自分ながらずいぶんと驚いた。