anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

ガードマン (11)

 最後の巡回の時間が静かにやってきたようだ。正面受付の机が小さく見える、しかも動くことが嫌いで豚のように肥えてしまった我々隊長の背中に、いつものようにお愛想の出発の挙手をして、片手に鍵束携えると、私は慌ただしく警備室を飛び出した。施設警備は開閉館時がもっとも忙しかった。ひと回り夜の施錠の確認に出発すると、ほぼ一時間半は放たれた伝書鳩のように、我々は自由な旋回に夜を上昇し、そのまま警備室に帰って来ることはなかった。

 その今夜に限って、幾分か千秋楽の舞台裏で待つ役者のような気持ちだったのかもしれない。ここに来て初めて、警備室の出口で無意識に深呼吸をした私がいた。いずれにせよ最初で最後の儀式であった。外ではたくさんの人気のなくなった事務所や扉、出入口のシャッターが常連の客として私を待っていた。それも今夜の警備員の小さな感傷にはまったくお構いなしに、いつものように私の手で鍵をかけられ、安息な夜の眠りに就くのを今か今かと待っていたのだ。