anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

ガードマン (9)

 そんな私にはとうてい解読不能だった一般社会の人々の無関心さだけが救いであった。私は案山子のような警備員であったから、その血の通わない醒めた心を外に知られてはいけなかった。人との接触はできるだけ避けた。そして他人と心を通わすことは案山子でなくなることでもあった。例えば夕方、ビルの周辺を巡回していて、ひっそりとした屋根の下の庭に面した窓明かりの奥に、それぞれの家庭の慎ましやかな団欒の灯が見えるとき、あるいは職場での朝夕交代の報告の引き継ぎを同僚と交わすとき、私は無表情な仮面の下で、世間に対しての恐怖と断絶におののくしかなかった。
 
 しかし私の中の腐った心と身体を、この厳めしい警備服でそっと包み隠すことで私は適度に心のバランスを保ち、心の行き場と落ち着きを見出だすことができたのも確かだった。制服の威光は私の精神にも浸透しそうだった。ただそれはどこまでが本当のことだったのかと思う。病人の目にはいくら努力しても、所詮、傷んだ世界しか見えないものだ。病んだ視線は幻像を呼び寄せ、屈折して癖のある脳は人を奇怪な世界の中で一人歩きをさせる。今から考えるとおそらくこの私も、そんな病んだ人間の一人と同じだったかのかもしれない。