anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

ガードマン (22)

 退職とは、人さまから忘れさられて引き潮のように居なくなるのが当たり前のことと思っていた。長く勤めればよくあるように、あちらこちらの対話中に感極まり、涙目の挨拶回りなど私には笑止千万なことであった。他人の人生の前を偶然に通り過ぎていく我々には、その他人にとっては、道端に転がる唯の石ころにすぎないと肝に銘じるべきであった。

 だが、もしかしたら私は警備業、最後の夜を無事に乗り越えるため、あるいはこんな私でも、いつまでも静まらない胸の動揺を抑えんがために、こんな愚にもつかないことを、長々とお喋りしているだけだったのかもしれない。影薄き姿の中に、私自身の未来も重ね合わせて見ていたその職場の同僚たちは、今は遠い過去の幻になってしまったが、それでもあの時の彼らの閉塞した、苦しげで微かな息づかいが、時の流れに残された燻し色の押し花のように、私の記憶の手帖からときどきこぼれ落ちて行くのだった。