anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

ガードマン (21)

 明日からはちょっと別の警備現場に応援にでも出かけるような、そんな妙に落ち着いた自分がいた。ただし、それはもうここには二度と戻ることのない応援であったのだろうが・・。このすみやかに取り戻せた平静さ、環境の変化に対する無関心さはとてもいいことだと囁く私がいた。施設には警備員の同僚の他にもたくさんの顔見知りがいたが、私が辞めることは誰にも言わないつもりでいた。巡回中の親しい受付係や清掃員とのいつもの立ち話に、馘の話はおくびにも出さなかった。

 そうは言っても、今夜、警備員としての最後の巡回から戻ってみると、私はいつもの宿直勤務と何も変わらない自分がいることを発見して大いに胸を撫で下ろした。隊長は相変わらずのパソコンゲームに夢中で、私の異状なしの挙手にもうわの空であった。警備室外の駐車場からは、職員の退出する乗用車の低いエンジン音が、鉄扉越しに地を這うように漏れ聞こえてきた。ビル関係者が部屋の鍵を返しに、次々と警備室に立ち寄っては去って行った。そう、今夜も昨夜も、その前の夜も何も変わりはしないのだ。私の去就など、この世界にどんな波紋ももの音も立てていないことを確認すると、私は心から安堵した。