anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

ガードマン (17)

 そんなわけで酒好きの同僚とは、毎夜、仮眠の前にこっそりと缶ビールの栓を抜いてうさを晴らした。禁断の果実は実に美味いものだ。いや、そんなことへわざわざ後ろめたさを感じる者などいなかった。我々に世間並みの良心などというものがあるほうが驚きだっただろう。ポイントを外さず、しかも要領よく仕事に目配りをすれば、大方の風通しはよかった。さらにこの施設警備、建物の防火構造やそこで働く人々の顔をしっかりと憶えてしまえば、あとはなんとでもなるものだ。そして私は生きもせず、だからといって死にもせず、ただこうして日めくりを指でめくる瞬間にだけ、少しばかりの胸のときめきを得て、毎日が過ぎて行くのに任せていた。

 給料は安いとしても、年齢、経歴不問の警備員のこと、万年人手不足の売手市場にはかわりなかった。どう見ても警備の求人が世の中から尽きることはなさそうだった。だから若者たちが辞めようと思えばいつでもそれをできる気楽さがあった。事情をしらない他人には、たまには警備服の威厳にかこつけて、空威張りの気晴らしに興じることもできたかもしれない。もちろん肉体労働者特有の筋肉痛に悩むことなぞ皆無である。早い話が、厳つい顔をして、正体の見えない建物への闖入者を威嚇していればよかった。警備員とは演技者たるべき者である。それに無愛想でいかつい私の顔は、親からもらった唯一の美点でもあったから、この特権は、私という演技者に仮面の下での密かな心の自由を与えた。