anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧

ガードマン (1)

いったん世知辛いこの世間の海から、希望の光さえ届かない海嶺にまで沈んでしまえば、その頂きに自ずと導かれて、居心地のいい深海の安楽の場所に辿り着けるかもしれなかった。それが私にとってのまさに警備業の世界であった。私は深海魚になるべくしてなっ…

アムステルダム 2 (16)

私は正直に、このギリシャ彫刻のような端正な顔をしたフランス人の若い医師に、私が所持金のほとんどないことを打ち明けた。すると彼は私を慰め、その心配は貴方には必要がない、フランス国家が貴方のような災害をうけた旅行者の治療費を全額保障すると語っ…

アムステルダム 2 (15)

診察室の彼は、私にレントゲン写真を見せながら、頭蓋骨の眉間のあたりを指差して、少し陥没していると語った。さらに整形の手術をするかどうかは、貴方の意思次第であると言った。私はびっくりして、それには及ばないと即答した。さらに、私が駅前で意識を…

アムステルダム 2 (14)

3、4日もすると、私はどうにかベッドから起き上がれるようになった。身体は痛かったが、とくに時折、包帯を巻いた頭部に鈍痛が走って目を閉じた。私の持っていた荷物はどこにもなく、ただ病室の棚の下の籠に、アンモニアの悪臭を放つ小水まみれのズボンとシ…

米軍基地、人物譚 (3)

萌葱色とは芽吹いたばかりの葱の色という。例えば露草や鉢植えの、足もと近くで見え隠れするのが目の位置にはよほど落ち着くものだが、それが空高く梢の上に、しかも見慣れた薄紅ではなく萌葱色の桜の花びらが、折りからの花散らしの風に揺すられて惜しげも…

米軍基地、人物点描 (1)

米軍基地、人物点描 (1) 改 ひょっとして、あらゆる実体は幻だとしても、人の縁はしぶとくその後の私自身をも規定する。しかも深い皺を記憶の中に残していく。そう考えるとこの世の中、私たちという個々の実体よりも、その間を途絶えることなく生成消滅を繰…