anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

アムステルダム 2 (16)

私は正直に、このギリシャ彫刻のような端正な顔をしたフランス人の若い医師に、私が所持金のほとんどないことを打ち明けた。すると彼は私を慰め、その心配は貴方には必要がない、フランス国家が貴方のような災害をうけた旅行者の治療費を全額保障すると語った。考えもしていないことだった。フランスという国家の、人権保護に対する制度の懐の深さを身をもってそのとき悟った。

私はそれでも彼に、もう傷も痛くないし、すぐにでも退院したいのだと訴えた。彼は、治っているかどうかは医師である自分が判断することで、貴方は最後まで検査を受けなければいけないと、穏やかに私の提案に反論した。私は自分の今までの思い詰めた気持ちに少し恥ずかしくなったが、何事にも跳び越しや飛躍を容易に許す日本文化とは違って、一つ一つの合理性を積み上げて行くことを尊重する、そうしたフランスの文化の深部に、このとき直に触れたような気がしていた。結局、私は一と月ほど病院にいて、そこを退院した。