anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

アムステルダム 2 (14)

3、4日もすると、私はどうにかベッドから起き上がれるようになった。身体は痛かったが、とくに時折、包帯を巻いた頭部に鈍痛が走って目を閉じた。私の持っていた荷物はどこにもなく、ただ病室の棚の下の籠に、アンモニアの悪臭を放つ小水まみれのズボンとシャツが、ゴミ捨て場の廃品のように丸まってるだけだった。意識を取り戻したとき、なぜ私が病院にいるのかわからなかったが、とりあえず、パリの街に入ってからさんざん苦労することになって、こうして寝場所だけは見つかってほっとしたことは覚えていた。

 さらに1週間が経った。朝食を済ますと、看護師が医師の診察を受けるように告げに来た。この病院に運ばれて初めて病室を出た。この中世の館のような古い病院の、一番奥まったところにある診察室に、びっくりするほど若くて端正な顔をしたフランス人医師が私を待っていた。王政時代の館の主人が、部外者の私をこの奥所に迎えいれたような錯覚に陥った。黒人男性が押す車椅子に乗せられて、明かり窓のある天井の高い迷路のような廊下を上に下に移動しながら通り抜けてきたのだ。途中、何百年もの間のフランスの魑魅魍魎が、その床や壁にひっそりと隠れて、東洋からまぎれこんだこの私を観察しているようだった。