anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

アムステルダム 2 (13)

あと、2、3時間もすれば北へ向かう始発の列車が来るはずだった。やはり疲れていたのだろう、寒さもあって、うとうととしているうちに、ふと隣の人間に肩を揺すられて起こされた。その手にはサンドイッチと缶コーヒーが握られており、私に向かって差し出されている 。アルジェリアから来たという中年の人なつっこそうな男だった。君は日本人か?日本はほんとうにすばらしい国だ、そんなことをフランス語で喋っていたように思うが、私の片言のフランス語ではよくわからなかった。

 私はあれだけ警戒して旅を続けていたのに、何ヶ月もの旅の疲れが溜まっていたのだろう、あるいはその男の笑顔のせいだったか、いや、パリという都会に戻ってどこか気を緩めてしまったのか、パリが途轍もなく危ない街なのは後で知ったことだった、その差し出されたサンドイッチを無意識に受け取って、何も考えずに口に運んだ。記憶はそこで止まってしまっていた。

 気がつくと、壁も天井も真っ白に照り光りする部屋に一人寝かされた自分がいた。最初、私はどこにいるのかさえわからなかった。身体を動かすと頭にひどい痛みが走って、自分でも聞いたことのない呻きが口から漏れた。頭部には包帯が巻かれ、しかも全裸で、 腕に点滴の針が刺さっていた。病院のようだった。私はついさっきまで、痛みで夢にうなされていた自分がいた気がしたが、あとは何も思い出せなかった。これはきっと悪い夢がそのまま続いているのだと思った。