anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

アムステルダム 2 (15)

 診察室の彼は、私にレントゲン写真を見せながら、頭蓋骨の眉間のあたりを指差して、少し陥没していると語った。さらに整形の手術をするかどうかは、貴方の意思次第であると言った。私はびっくりして、それには及ばないと即答した。さらに、私が駅前で意識を失い、血だらけになって倒れていたのを、通行人が発見して病院に搬送されたのだと語った。おそらく睡眠薬で眠らされ、何かの鈍器で頭部を殴られたのだろう、と。

私は自分の怪我のことより、だんだんとこの病院の治療費が心配になってきたところだった。個室を充てがわれ、三食の食事は病人には豪華で、半月ぐらいからはワインの小瓶も付いてきた。それで事によれば、近いうちに傷が良くなり、隙を見ては窓から逃げるしかないと思いつめていたところだった。日本社会を棄てるようにして飛び出し、今さら、日本大使館に事情を連絡しようなどとは、さらさら考えもしなかった。持っていた荷物のほとんどを盗まれ、私の漢字のサインを、可笑しな筆跡でなぞった跡のあるトラベラーズチェックと、幸運にもパスポートだけがコートの内側に残っていた。もちろん私のような貧乏旅行に、傷害保険などとは縁がなかった。