anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

酔言 1

酔言 1

 今日も冷たい雨に作業着を濡らして、雨脚がアスファルトを無造作に跳ねあがる帰り道を、不器用に傘を片手にさしながら自転車をこいできた。裏道には警察官はいなかった。まだあとひと月の残る特養老人ホームの、今日一日の設備管理を終えた。寒い日であった。それで仕事帰り、こうして途中の小さな中華屋の暖簾をくぐり、一人寂しく一杯やっているが、つまみもなしにいつのまにか盃を重ねてしまった。自分にはやはり心を割って話す相手などいないと、しみじみと胸の奥で感じながら呑んでいた。

 私は話相手が欲しいのだろうか、それとも珍しく呑んだ安紹興酒のせいか、あるいはまる一日の身体に変調をきたすほどの寒さと疲れのせいなのだろうか、いや、そうじゃないだろう、呑むほどに頭は冴えざえとして、今いる自分の立ち位置が明確になってくる。やはりここには他人の存在はいっさい関係がない。結局は目指すものがぼんやりとしていても、重要なことは、今、私のやらなきゃならないことを黙々とやる、畑の小石を腰をかがめて拾いあげていくように反復する、ただそれだけしかないのだ。

 気づいてみれば、残された時間はだれもがはなはだ少ない。そこを感情の底で、浮世の夢のさめざめと、あえて自分自身が引き受けてきたものへの、様々の場所での『断つ』ということの隠れたその力の大きさを、それは私を取り巻く物や事柄、あるいは他人や己れの曖昧な可能性などというものへのくっきりとした断絶を、あらためて意識的に認識することが、自分に対して誠実に生きることになるだろう、と考える。そしてそれは勇気のいることでもある。