anehako’s diary

ノート代わりの下手な駄文を書き連ねています。書き替えも頻りで、

アムステルダム 2 (21)

 ある時、元ビートルズのあのリンゴスターが、女優らしき美しい女性三人と、ふらりと予約もなく店に訪れたことがあった。その辺りの外国人とは違って、フィヨルドのように静かな深く碧い眼をして、注文に来たウエイターの私を見つめた。私はジョンが好きで彼のファンではなかったが、その瞳に吸い込まれるように、思わず貴方の曲が大好きだったと、歯に浮くようなお世辞を言ってしまった。すると彼は突然のウエイターの切り出しにちょっと戸惑ったようだったが、私に手を差し伸べ、私の手を優しく握って、はにかむように微笑み返した。

 

 私は子供のように嬉しくなった。カウンターに下がると、大徳利を勝手に四本掴んで、燗をこっそりとつけて、彼らのテーブルに戻った。そしてこれは私からの心からのプレゼントだと言って、テーブルの上に差し出した。彼は先ほどと同じように、私の目を真っすぐに見て、静かにサンキューと言っただけだった。華やかな女性達に囲まれていても、東洋人の名もない一人のウエイターに相対しても、まったく驕ることも浮わつくこともなく、さすがに、これが世界的なスターなのかと感心した。燗をつけた日本酒を、彼におごった日本人はきっと私だけだろう、いや、くすねた店の酒だから、それは違うと言われてもしょうがない。